7-23.難問・珍問進化の痕跡器官?[2]歯の重要性

第7章 Let's Q&A.

7-23.難問・珍問進化の痕跡器官?[2]歯の重要性

主よ。立ち上がってください。私の神。私をお救いください。あなたは私のすべての敵の頬を打ち、悪者の歯を打ち砕いてくださいます。救いは主にあります。あなたの祝福があなたの民の上にありますように。(詩篇3:7、8)

 私は6-7歳の頃から虫歯と長い付き合いをしていて、歯医者のドリルで削られていない歯は、現在数本しかないという自慢にならない歯の健康状態ですが、昔、30歳を少し過ぎた頃、アメリカで歯医者に掛かりました。
その時に、「永久歯に生え替わるときに、日本はどういう状態でしたか?」と尋ねられました。
第二次大戦の敗北により、戦後の日本は文字通り国中が餓えていました。ろくなものを食べることができなかった時代に、私は小学生としての6年間を過ごしたのです。
永久歯が生え、基本的な体が形成される成長期に、栄養失調ではないとしても、タンパク質、脂質そしてビタミン類など必要な栄養素を充分摂れなかったはずで、そのことの一つの付けが歯に現れていたのでした。
戦勝国であってもボロボロに痛めつけられたイギリスやフランスでも同様に、その頃に永久歯に生え替わった人々の多くが、歯の付け根が弱くて軒並みその部分が侵食されているとのことでした。

 一番遅く大人になってから生えてきて、生えるときに痛みを伴ったり、虫歯になりやすかったりして厄介者として扱われ、進化の痕跡器官という汚名を着せられた親知らずについて、前回少し学びました。
虫歯になったり、歯周病になったりして口腔内に問題が生じるまで、ともすればその重要性に気が付かない歯というものについて、興味深いことを少しご紹介しましょう。

 人間の歯は、図のように乳歯は20本です。それが生え替わったあと、永久歯は28本プラス親知らず4本で、全部揃えば32本になります。
歯が欠如することがあるのは、親知らずに関してよく知られていますが、その他の歯についてはどうでしょうか? 
赤色に塗り潰した4本の親知らず以外に、星印(側切歯4本)、リボン印(第二小臼歯4本)、淡緑色丸印(第二大臼歯4本)、そして下顎では黒三角印(中切歯2本)が欠如することがあります。
この中でも欠如しやすいのは、上顎の桃色星印2本と下顎の桃色リボン印2本ですが、それでも欠如率は2%以下です。
親知らず(第3大臼歯)の欠如率は、これとは比較にならないほど大きく、現代日本人においては1本以上先天的に欠如している人の頻度は約30%で、10人に3人の割合で少なくとも1本は欠如していることになります。
第3大臼歯の欠如は世界に分布する集団ごとに差違があり、欠如率は0.2%から25%の範囲であると報告されています。
最も頻度が低いのは黒色人種であり,最も高いのは極北に住む人々で、日本人を含むアジアの北方モンゴロイド集団は世界の人種集団の中でも欠如の頻度が高い集団に属しているようです。

 親知らずの欠如率を歯の総数や顎の大きさなどと関連づけて、進化論的に説明しようと様々な試みがなされましたが一定の傾向は見つからず、何でも進化に結びつけようとしても成功しない実例になっています。
進化論的にモグラなど食虫目がほ乳類の先祖とされており、ほ乳類の基本的な歯の数はモグラの44本であると考えている人がいます。
しかし、ミズラモグラは確かに44本ですが、アズマモグラは42本、センカクモグラは38本であり、ほ乳類の先祖と定めた食虫目の歯の数さえ差があり、歯の数と進化との間に何か関係があるようには見えません。

 ほ乳類の歯の数を少し表に示しましたが、実に、千差万別です。
クジラ目のクジラとイルカに至っては、歯のないものから200本以上の歯を持っているものまでいます。
それ以外でも、ネズミの16本から、イノシシ・ブタの44本まで様々で、ほ 乳類の歯の数の基本は44本という原則とは全く無縁のデーターが出ています。
また、哺乳綱の下の分類項、「目」について比較すると、例えば同じげっ歯目でも、歯の総数はネズミが16本、リスは22本と異なり、またげっ歯類にとって重要な門歯の数まで相互に異なっています。

 同様に、蹄の数が偶数であることで分類されている偶蹄目でも様々で、イノシシ・ブタは44本ですが、ウシとヤギはヒトと同じ32本です。
食肉目でもネコとイヌで異なります。興味深いのは、これだけ近縁の動物たちの歯の数が大きく異なるのに、霊長類のサルの仲間はすべて32本であることです。
同じ霊長類だから当然と思われるかも知れませんが、実は霊長類は漠然と考えられているよりはるかに多種多様なのです。
非常に重要な染色体数は16~80本と大きな幅があり、相互に非常に異なった動物で、もちろん交配して子孫を生むことなど論外です。
したがって、歯の数だけがこのように一定であるのはむしろ不思議です。
そして、第3大臼歯・親知らずが欠如するという特徴を示すのは、この霊長類の中でもヒト科に属する人類,特に現代人と新世界ザルのマーモセット科だけです。

 さて、新世界ザルとは何でしょうか? 「動物分類学上、サルの中でも進化が進んだ上位でヒトに近い」ので「新世界」ザルと名付けられたという誤解を招かないように、敢えて進化論的分類を少しご紹介しましょう。
南米に棲息するオマキザル、クモザル、マーモセットなどが新世界ザル、一方、アジアやアフリカに住むニホンザルなどのオナガザル、テナガザルなどが旧世界ザルと呼ばれています。
広義のサルである霊長目・直鼻猿亜目・真猿類の下の分類項目において、旧世界ザルは狭鼻小目、新世界ザルは広鼻小目に分類されています。
旧世界ザルと新世界ザルの間に進化論的な上下関係は考えられておらず、両者は遠く離れた地域で、平行して同じような進化をしたと考えられているようです。

 サルの仲間の親知らずに関して、進化論者は次のように論述しています。「高等哺乳動物の始めから今日の霊長類まで少なくとも約6,000万年という歴史を持っている。さらに人類までの進化にはおよそ500万年を経過しているが、その大半は第3大臼歯の欠如と無関係な時代である。」この500万年間に親知らずが進化あるいは退化して痕跡器官へとなってきた過程が追跡できず、このような申し訳をして仮説が覆されていることを自ら認めているのは非常に興味深く思われます。

参考文献:京都大学霊長類研究所 http://www.pri.kyoto-u.ac.jp/index-j.html

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