6-1.アダムの子孫

第6章 ノアの洪水

6-1.アダムの子孫

主は、地上に人の悪が増大し、その心に計ることがみな、いつも悪いことだけに傾くのをご覧になった。それで主は、地上に人を造ったことを悔やみ、心を痛められた。そして主は仰せられた。「わたしが創造した人を地の面から消し去ろう。人をはじめ、家畜やはうもの、空の鳥に至るまで。わたしは、これらを造ったことを残念に思うからだ。」(創世記6:5-7)

 偉大な創造のみ業を、連載・読み切りの三十五回にわたる小メッセージにおいて学んできました。創造主に背くという大罪を人が犯さなければ、この完璧な世界はすべてにおいて美しく継続したでしょう。自由ないのちを与えられ、豊かな祝福の中に置かれていたにも拘わらず、「善悪の知識の木からは取って食べてはならない」(創世記2:17)というたった一つの小さな制約を、アダムとエバは守ることが出来ませんでした(創世記3:1-6)。
このような背きの性質・行動は人類に受け継がれており、そっくりそのまま私たちの姿なのです(ローマ3:9-12)。彼らは主に背いた結果、愛してくださった主への信頼を失い、恐れて、隠れるようになりました。自分の犯した罪の責任転嫁をし、土地も人ものろわれました。そして主は動物、多分羊を殺し、地上で最初の血を流して二人の衣服を作って下さったのです(創世記3:7-24)。

 知識の木の実を食べて死ぬというのは「霊の死」だという見解もあるようですが、「アダムは全部で九百三十年生きた。こうして彼は死んだ」(創世記5:5)と肉体の死亡宣告がされており、「あなたはちりだから、ちりに帰らなければならない」(創世記3:19)と言われたことが実現したので、肉体の死をも含めた「死」であったのです。「罪から来る報酬は死」(ローマ6:23)であることが人類史の最初から成就したのであり、同様の趣旨のことが聖書には様々に書かれています(民数記14:33、Ⅱサムエル6:7、Ⅱ歴代10:13、エゼキエル18:20、ヨハネ8:24、ローマ5:12)。
すべてのことがアダムからセツに受け継がれ、六代を経由してレメクまで、「生まれて生きて死に、生まれて生きて死ぬ」世界が展開しました(創世記5:5-31)。こうして約千五百年を経過する間に「地上に人の悪が増大し、その心に計ることがみな、いつも悪いことだけに傾き」「地は、神の前に堕落し、暴虐で満ちた」(創世記6:11,12)ので、創造主は洪水をもってこの世界を滅ぼすことを決定なさいました。

 洪水に際して、創造主から重要な命令を特別に与えられたノアについて、アダムからの主要な年代記を図に示して見てみましょう。薄緑色の矢印と数字は後継者が生まれた時と年齢を示し、青字は死亡時の年齢を示します。アダムは主によっていのちを与えられた後、930年生きて、約束通り死にました。七代目のエノク、次いでメトシェラ、レメク(ノアの父親)は、アダムと同じ時期に生きていたことが明確に分かります。
この人々が「直系の後継者」であり族長であったことを考えると、九百年を経過していても互いに個人的接触があり、アダムは子孫たちに信頼・尊敬されていたでしょうし、彼らを指導していただろうと想像されます。ノアはアダムの死亡後に生まれていますから個人的には面識がなかったのですが、創造主によって直接造られた、尊敬すべき初代のことを、父親やその他年長者たちからいろいろと聞いていたことでしょう。ノアの曾祖父のエノクは、「神とともに歩んだ」ので「神が取られて、いなくなり」(創世記5:24)、死ななかったことで有名なエノクです(ヘブル11:5)。

 さて、アダムの子孫はどれくらいいたのでしょう?アダムをはじめとしてこれら族長たちには、それぞれ多くの子供たちが与えられたと聖書に書かれていますが(創世記5:5-31)、その子供たちの人数や生まれた時期については明確には書かれておらず、想像するしかないようです。たとえばセツは、アベルが死んでカインが追われ、その後、アダムが130歳の時に生まれたアダムの三人目の子であったと考える人が多いようです。とすると、カインが「わたしに出会う者がわたしを殺すだろう」と追われる時に言い、主が保護を与えられたことが理解しにくくなります。またカインは結婚もしています(創世記4:14-17)。

 第三子であるとすると、人間は、アダム、エバ、カイン、および記述されなかった可能性のある少数の女性だけであったはずです。もとより、寿命が長かったので、人類が驚異的に増えた場合の、数百年も先の遠い将来のことをカインが心配したという想像も可能かも知れません。しかし、聖書はしばしば後継者だけを記述し、数も不明で、必ずしも生まれた順に書かれておらず、生まれたことが全く記述されていないことも多いようです。アダムの後継者はセツであったが、それ以外にアダムの子孫たちがすでに大勢いたことを示唆していると考えることは出来ないでしょうか。洪水後生き延びたセム、ハム、ヤペテの三人の息子が生まれた時ノアは五百歳であったと書かれていますが、ノアには五百歳まで子どもがおらず、そしてこの三人は同じ年に、つまり三つ子として生まれたのでしょうか。

 いずれにしても、大洪水が起こったノアの時代には、アダムの子孫は表面に現れた人々以外にも大勢の人々がすでにいて、暴虐に満ち満ちて地上に住んでいたのだと書かれているのです。


「創世記の記録」ヘンリー・モリス著、宇佐神正海訳、「創造」Vol. 1, No. 3 (1997)、 「新・科学の説明が聖書に近づいた(地球史編)」久保有政著