6-6.綿密に設計された箱船

第6章 ノアの洪水

6-6.綿密に設計された箱船

あなたは自分のために、ゴフェルの木の箱舟を造りなさい。箱舟に部屋を作り、内と外とを木のやにで塗りなさい。それを次のようにして造りなさい。箱舟の長さは三百キュビト。その幅は五十キュビト。その高さは三十キュビト。箱舟に天窓を作り、上部から一キュビト以内にそれを仕上げなさい。また、箱舟の戸口をその側面に設け、一階と二階と三階にそれを作りなさい。(創世記6:14~16)

 創造主は洪水を起こす前に、ノアに箱船を建造するようにと命じられました。この「箱船」と訳されているヘブル語の原語(tabhahテバー)は、「契約の箱」(the ark, NKJV & NIV)に用いられた言葉ではなく、モーセが乳児の時に隠されたパピルス製の「手かご」(出エジプト2:3)に使われた言葉です(ヘンリー・モリス「創世記の記録」)。

 日本語及び英語訳の一つTEVでは、ノアの「箱舟・箱船」と、「契約の箱」と、乳児を救った「手かご」とは、それぞれ異なった言葉に翻訳されています。他の英語訳、NKJVでは全部"ark"、NIVは手かごだけ"a papyrus basket"(パピルス製手かご)と別の単語に翻訳されています。
翻訳はともあれ、原語では水に浮かび殺戮の刃から乳児を救った小さな手かごと、大洪水からの救いのための巨大な船に同じ言葉が用いられたのは、非常に興味深いことに思われます。大小には関係なく、水に浮かぶ器を表す昔の言葉だったのかも知れません。私たちは船というと、図(左)に示した様な流線型の船を思い浮かべないでしょうか。

 しかし、このノアの船の目的は水を切りスピードを出して航行することではなく、救われるべき人間と動物たちに快適な避難場所を提供し、無事に守り通すことでした。
地球全面を覆った大洪水によって、恐らく荒れ狂った怒濤の海の中で、どのように傾こうともひっくり返らず復元し、水の上に安定して浮かび続けることだったのです。この目的のために、主がノアに与えられた船の詳細な設計を見てみましょう。箱船の長さは三百キュビト、幅は五十キュビト、高さは三十キュビトでした。1キュビトには、バビロニア人、エジプト人、ヘブル人が大きな差のある様々な長さを当てています (44.5cm-61cm)。
聖書の1キュビトは約46cmだと考える人が多いようですが、最も短い44.5cmを採用して現在の単位に換算し船の最小限の大きさを推定してみましょう。長さは133.5 m、幅は22.3 m、高さは13.4 m、全容積は約40,000立方メートルの巨大な船であることが分かります(図・右)。

 3,000平方メートル(900坪)の広さの土地に13.4 mの高さのビルが建造されたことになり、近代的な船では約15,000トン級の船に相当すると算出されています。これは、貨車1両で24頭の羊が運べる標準的な家畜運搬用貨車522両分の容積に相当し、箱船全体では12万5千頭以上の羊を運ぶことが出来たことになります。
船体は短いと不安定で、長すぎると大波に乗った時真ん中から折れる危険性があります。幅・高さについても同様で、最高の安定性を得るためには相互に最高の比率を保っている必要があります。長い研究の結果、造船界ではタンカー級の大型船にとって最も高い安定性と強度を持つ形は、長さ・幅・高さの比率が黄金比と呼ばれる30:5:3であることが判明しました(「創造論の世界」久保有政著)。

 この比率はノアの箱船の比率と同じであり、ノアの時代に主が教えて下さった知識に、人類は二十世紀後半になってやっと辿り着いたのです。ですから、この時代にこのような大がかりな船を建造するのに必要な科学知識、科学技術が発達していたのかなどと心配する必要はないでしょう。ノアたちがどのようにして建造したのか情報はありませんが、事実出来たのですから必要な科学知識・技術は備えられていたに違いないでしょう。
ノアは主の命じられた通りにしたと書かれています(創世記6:22)。船の建造に使われたゴフェルの木の正確な性質は分かっていませんが、木目の細かい堅い樹木(ヘンリー・モリス「創世記の記録」)とか、「檜の類」(NIV)、糸杉かもみのような木(口語訳、フランシスコ会訳)、松の木(文語訳)などと説明されています。

 船は三階建てでしたから、それぞれの階は約4.4メートルで、非常に天井の高い極めてゆったりとした空間が確保されていました。これは空気を清浄に保つために役に立ったことでしょう。しきりをして部屋が作られ、箱船の外側のみならず内側にも木のやに(タール)を塗って防水と腐食止めが施され、生活の場とされました。また屋根近く44 cmの位置に天窓が作られましたが、これは採光と換気のために箱船の周り全体に隙間窓が作られたと考えられています。
側面に設けられた扉の数は、ここで使った新改訳(三つ)以外の他の翻訳では、明確に一つ(新共同訳、NKJV, NIV, TEV)、又は一つと理解される翻訳(口語訳)がされています。又7:16の記述では、いずれの翻訳も一つと捉えて訳されています。救いの道はただ一つの扉(門)なのです(ヨハネ14:6)。