5-19.いのちを支える蛋白質

第5章 6日間(144時間)の天地創造

5-19.いのちを支える蛋白質

それはあなたが私の内臓を造り、母の胎のうちで私を組み立てられたからです。
私は感謝します。あなたは私に、奇しいことをなさって恐ろしいほどです。私のたましいは、それをよく知っています。私がひそかに造られ、地の深い所で仕組まれたとき、私の骨組みはあなたに隠れてはいませんでした。
あなたの目は胎児の私を見られ、あなたの書物にすべてが、書きしるされました。私のために作られた日々が、しかも、その一日もないうちに。
神よ。あなたの御思いを知るのはなんとむずかしいことでしょう。その総計は、なんと多いことでしょう。(詩篇139:13-19)

 十九世紀後半のメンデルの研究によって、遺伝学の幕が上がりました。以後、驚異的な進歩に伴って、人類は遺伝子を操作するに至り、大腸菌にヒトのインシュリンを作らせて糖尿病治療に使ったり、遂にクローン動物を作り出すことさえ躊躇しませんでした(前項「生めよ、増えよ」参照)。科学の進歩は望ましいものであり、賢明に学び、人類の幸せのために活用する責任が人間にあるのですが、進歩に目を奪われ、「人間は優れている」と自惚れるようになったのではないでしょうか。このような科学研究の成果は、視点を変えれば実は貧弱なものであり、創造主の叡智によって造られた作品がいかに不思議に満ち満ちたものか、その壮大さは人智の及ばないところにあるという事実を忘れ果ててはいないでしょうか。主が備えてくださった驚異の世界、例えば自分自身のいのちの営みにあまりにも慣れ親しんでいるが故に、不思議を不思議と感じる感性を失い、感動しなくなっているのではないでしょうか。

 生物学を学ぶ人々は、細胞の微細構造や構成成分の機能を分子レベルまで解明して、その不思議と驚きに満ちた素晴らしい世界に魅せられていきます。学べば学ぶほどますます不思議の世界が奥深く広がって行き、生体物質や生物的機能の筆舌に尽くせない神秘を見せられて、人間の小ささを知る謙遜に辿り着くのです。そして汲んでも汲んでも尽きない創造主の叡智に思いを馳せずにいられなくなるのではないでしょうか。

 生命体を支える蛋白質が体内で造られる機構は、ほぼ全貌が判明したという恐ろしい錯覚がありますが、本質に迫る神秘は、実は隠されたままです。質的に生命に関わりを持てない条件下でアミノ酸から小さな蛋白質を、実質的には無意味な低収量で合成することはできました。しかし、他の何千、何万種のタンパク質やその他多くの生体物質と関わりを持つことさえなく、生命反応に関与するレベルで蛋白質を試験管内で合成できるということを意味するのではないのです。


 蛋白質が体内で造られるには、二十種のアミノ酸が100個以上、蛋白質の種類によっては何千個も、一つずつ正しい順番に長い鎖につながり、それが定まった通りに折り畳まれ、正しい立体構造を形成して初めて本来の役割を果たします。しかも、それぞれのアミノ酸は図1に示したように相互に鏡に映った構造、つまり右手と左手にあたる関係の構造が存在します。人間などの蛋白質はL型アミノ酸のみから出来ており、D型アミノ酸は全くありません。両者の区別は厳密で絶対的であり、例外はありません。試験管内の反応では、L型アミノ酸から出発しても、半分がD型に変換して反応生成物は両者の半々の混合物になってしまいます。また仮に500個のアミノ酸のたった一つでも間違ってD型になってしまうと、例え高分子まで合成が進んだとしても「ゴミ」でしかない蛋白質となってしまうのです。

 図2は人のヘモグロビンの模型図ですが、二種類の長い鎖の単位がそれぞれ定まった通りに折れ畳まった後、正しい立体構造を取り、四つの単位が一緒になって一つのヘモグロビンになります。「血液中の血球成分」の項でお話ししたように、酸素を全身に配り、炭酸ガスを集め排泄する重要な役割を果たします。鎌状赤血球症という重篤な病気は、このヘモグロビンの小単位を構成している574個のアミノ酸のたった一箇所に間違ったアミノ酸が入っただけで、赤血球が丸くならず図3に示したように鎌状赤血球になり、ヘモグロビンが酸素を正常に運搬することが出来ないために重大な貧血を引き起こすのです。

 さて、蛋白質に糖や、脂質や、金属が結合し、又は付着していることがあります。血液型物質が糖蛋白質であることはよく知られていますが、この場合、糖は直接の役割を果たしています。しかし、糖や脂質や金属自身が、その蛋白の生理機能に直接あるいは間接にどのように関与しているか不明であっても、存在しているべき補助的構成成分が欠けていると様々な支障が生じます。これらが結合又は付着するためには、別の酵素やメカニズムが特別に生体に組み込まれているのです。研究の進展に伴ってそれまで未知であった様々なことが明らかになると、すべての生命反応が全体として欠けも余剰もなく隅々まで見事に統率が取れていることの一端を垣間見ることになって、創造主が全知全能であることを改めて悟らされるのです。


斉藤正行・丹羽正治編「改訂基礎生化学」講談社(1999)、「生物図録」鈴木孝仁監修、数研出版(2002)、臨床検査学講座「生化学」、阿南功一、阿部喜代司、原 諭吉著、医師薬出版(2002)