5-20.知恵と知識の源である主

第5章 6日間(144時間)の天地創造

5-20.知恵と知識の源である主

隠されていることは、私たちの神、主のものである。しかし、現わされたことは、永遠に、私たちと私たちの子孫のものであり、私たちがこのみおしえのすべてのことばを行なうためである。(申命記29:29)

 主が創造されたいのちの豊かさ、不思議、素晴らしさは、どのように感嘆してもし足りず、「奇しいことをなさって恐ろしいほどで」、「御思いを知るのはなんとむずかしいことでしょう。その総計は、なんと多いことでしょう」(詩篇139:13~17)と、ダビデと共に褒め讃えずにはおられません。生命反応の本流に位置する生体物質の一つである蛋白質のうち、糖尿病に深く関わりを持つインスリンを取り上げて、主の素晴らしいみ業の一端を垣間見たいと思います。

 糖尿病の原因が何であったとしても、食事療法や運動療法で血糖値をコントロールできなくなりインスリンを毎日注射しなければならなくなると、これは一生の問題ですから一大事です。注射ではなく口から服用できる錠剤とかカプセルにできたら、多くの糖尿病患者はどのように大きな恵みを受けることでしょう。インスリンを経口投与薬にするために、二十世紀前半から大勢の人々が精力的に研究しました。しかし、インスリンだけではなく、鮪や肉の、あるいは大豆や小麦粉の蛋白質、どんな蛋白質に対しても小腸粘膜が関所の役を果たして、そのまま体の中に入ることは出来ません。体の中に入ったら生命が脅かされます。これは、いのちが造られたときに主の叡智により備えられた大切な防御機構であり、異物から自己を守る免疫と呼ばれる優れた機能なのです。

 口から入った蛋白質はすべて胃や小腸で酵素により縦横無尽に切り刻まれ、構成成分である小さなアミノ酸にまで分解され、初めて小腸粘膜という関所を通過できるのです。即ち、消化管から吸収されて血液中に運ばれ、体内の様々な場所に送られるのです。生体を護るための機能の故に、分子量が6,000ダルトンに過ぎないインスリン(水溶液中ではこの単位が8つ会合した八量体、即ち分子量48,000ダルトンになっていると考えられる)が消化管を通過出来ないので、インスリン経口剤は今もって作ることが出来ないのです。いのちある人間と動物に与えられたこの免疫の仕組みは、研究が進めば進むほど、その驚異に満ちた神秘的な機構に研究者たちは深い感動を覚え、大きな関心の的になりました。

 穏やかな条件下、即ち中性の水の中で、常温、常圧という環境下、生命反応が円滑に営まれるために仲介役として立ち働く何千種類もの酵素の多くは、活性を持たない前駆体として生合成されて、出番が来るまで静かに待機しています。そして出番が来ると、それぞれに対応した活性化メカニズムが働き、酵素は活性化されて定められた通りに働きます。インスリンもまた、約1.5倍の長さを持つ図のような一本の鎖からなる不活性な前駆体として膵臓で生合成されます。それが必要に応じて図の青い部分がはさみの役をする酵素によって切り離され、二本の赤い部分は三つのくさびでしっかりと結び合わされ、活性を持つインスリンになります。切り離される青い部分はCペプチドと呼ばれますが、長い間、この部分は「つなぎ」の役目以外に何か意味のあるものとは見なされず、捨てられるだけの不要なものと考えられていました。

 ところが、近年このCペプチドが生理的意味を持っているとの研究報告がなされました。また、最近、前駆体からCペプチドが取り除かれた後、赤い部分が活性を発現できるインスリンの立体構造を取るために、このCペプチドが補助的役割を果たしていると考えられる研究結果が報告されました。この研究報告を読んだとき、創造主のなさることには全く無駄がなく完璧なのだと、改めて感動を覚えました。「人の思い計ることがむなしい」(詩篇94:11)ことを、人間にはとても理解できない「完全な知識を持つ方の不思議なみわざ」(ヨブ記37:16)と、「神の知恵と知識は底知れず深く」(ローマ11:33)、「主が知恵を与え、御口を通して知識と英知を与えられる」(箴言2:6)のだということを、そして私たちは受ける教えをよもやおろそかにしてはならないのだと心に刻みました。


Li-Ming Chen, Xing-Wen Yang, and Jian-Guo Tang, J. Biochem. 131, 855 (2002), 斉藤正行・丹羽正治編「改訂基礎生化学」講談社