創造主に出会って ~第八章~

創造主に出会って ~第八章~

ベッカー先生との出会い

 私にとって、忘れる事の出来ない人がいます。それは、アメリカ人宣教師であったミス・ベッカーとの出会いです。「サンシャイン」のニックネームを持つ笑顔の素敵な方でした。

 その方は、ナースの資格も持っていて、時々バプテスト病院の手術室で働いておられました。彼女は、独身で一人で住んでおられたので、よく青年たちを家に招いてくださり、福音を語っておられました。

 私は、アメリカ人は皆、帝国主義のスパイだと教えられていたので、最初は警戒心もあったのですが、彼女と会うと、今まで感じた事のない安らぎを覚えるのです。それは、ありのままで居られる心地良さです。以前にもお話したように、母には良い子の仮面をかぶっていましたし、他の人に対しても、節度を持って接する必要がありました。でも、彼女のところでは、自分自身でいることが出来たというか、思い切り甘えることが出来たのです。

 しばしば彼女は、私一人だけ招いてくださり、いつもの彼女の食事を御馳走になり、そして、泊まりました。何故か遠慮しなかったし、彼女自身、私との交わりを楽しんでおられるようにも見えました。

 彼女は、いつも聖書のみ言葉に感動し、その証を聞かせてくださるのですが、私の心には届きません。そのうちに、私が求道者のような顔をして、彼女の親切に甘えている事に後ろめたさを覚え、思い切って、自分の思いを告げました。

 「私は、無神論者で共産党を信望しています。クリスチャンになるつもりは全然ありません。」と・・・彼女がその時、涙を流して私のために祈られた事を忘れる事が出来ません。

私は、何という裏切り者なのなんだろう・・・何と私は、彼女の愛に対して酷い事をしているのだろう・・・と思いましたが、私は自分を偽る事が出来ませんでした。

 そんな私がイエス様を告白したと聞いた時、彼女は寮に飛んで来て、大喜びでした。

そしてその時、驚くべき事を聞いたのです。私が自分の思いを打ち明けた後、ベッカー先生は、アメリカの自分の友人たちに私のために祈ってくれるように・・・との手紙を出したそうです。(その中の一人が後に私のペンパルになりました。)そして、彼らの祈りが聞かれた!と言われたのです。

 私は、私に伝道することを諦めてもらうために告白したのに、何と彼女は、私を諦めていなかったのです。

 その後も交わりが続きましたが、ある時、彼女は自分に対して中傷する人に自分の思いを書いたそうです。その手紙を投函する前に祈ると1コリント13章が示されたので、「愛は寛容であり、愛は親切です。・・・人のした悪を思わず・・・」と自分が書いた手紙の上に書いていったら、自分の書いたものが見えなくなってしまった。と証してくれました。もちろん、その手紙は投函されることはなく、彼女の心の傷も癒されました。

 私をありのまま受け入れてくれた彼女の信仰の原点を見たような気がしました。
 彼女は後に、奥様を亡くされた日本の宣教師の方と結婚されて、関東に行かれました。

そして、ご夫妻で米国に帰られた後に天に召された事を知りました。彼女との親しい交わりを通して、イエス様の愛を体験させて頂いたと思います。彼女の執り成しの祈りが無かったら、私の回心も無かったのでは?と人を通して働かれる主の御業に感謝しています。

【続きます】

濱本 章子 副牧師