6-10.箱船に乗った動物たち

第6章 ノアの洪水

6-10.箱船に乗った動物たち

またすべての生き物、すべての肉なるものの中から、それぞれ二匹ずつ箱舟に連れてはいり、あなたといっしょに生き残るようにしなさい。それらは、雄と雌でなければならない。また、各種類の鳥、各種類の動物、各種類の地をはうものすべてのうち、それぞれ二匹ずつが、生き残るために、あなたのところに来なければならない。あなたは、食べられるあらゆる食糧を取って、自分のところに集め、あなたとそれらの動物の食物としなさい。」(創世記6:19-21)

 箱船が出来ると、創造主はノアの家族八人と共に、地上のすべての生き物を、雌雄で箱船に乗せて洪水から救い出すようにと、指示を与えられました。「きよい」動物については七匹ずつ(7:2, 口語訳、NKJV, NIV)(注)、箱船に入りました。

 現在、世界中に住む哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類は一万八千種より少ないと、生物分類学者たちは見積もっています。余裕を持って試算するために、仮に分類学上の「種」が聖書の「種類」であると仮定し、また実際の化石記録から知り得る既知の絶滅した陸生生物を加え、この二倍、三万六千種が当時生息していたと仮定して概算してみましょう。すると各二匹ずつとして全部で約七万二千匹、「きよい」動物をもう五匹ずつ加えると約七万五千匹の動物が箱船に入ったことになるでしょう。
動物は象、恐竜など羊より大きなものは二百数十種に過ぎず、マウス、雀、蛙など小動物が圧倒的に多く、平均的には羊の大きさ以下であったと考えられています。さらに、必ずしも成体になった動物を入れる必要はなく、特に恐竜のような爬虫類では子どもは小さいので、「綿密に設計された箱船」で述べた通り、箱船はノアとその家族の住居、動物の部屋(原語は「巣」で、積み上げられていたかも知れません)、食料庫、その他すべての必要のために充分な空間を備えていました(成体のキリン、牛、象などを描いた模式図で、天井の高さなどから箱船内の空間を想像してください)。

 さて、実際にどのような種類の動物が箱船に入って後世に子孫を残したのでしょうか。実は、聖書で言っている種類は、生物分類学上の「種」よりも上の分類項目である「属」または「科」に該当するであろうと考えられています。したがって、実際には前述の概算より遙かに数は少なかっただろうと思われます。

 宇宙に激変はなかったという斉一論に基づいて、「地上の動植物の分布は現在と余り変わらなかったので、北極、南極の動物を初め、現在中東に住んでいない様々な動物を集めることは出来なかったはずである」と考える人々は、全地球を覆う洪水があったことを否定すると共に、箱船に全種類の動物が乗船した可能性はないと結論しています。
しかし、創造された地球・大洪水以前の地球は今の地球とは根底から異なっていて、地球上の地域差は今ほど大きくはなく、気候も温暖で食物も豊富だったと考えられます。従って、動物は今日のように緯度や経度の違いで生態学的に隔離されることはなく、世界中に多かれ少なかれ同じように分布していたことでしょう(六日間(144時間)の天地創造:上の水完璧な世界みんな仲良し)。現在は中東に生息しないパンダやコアラなどを含めあらゆる種類の動物を乗船させるために、ノアがはるばる遠征する必要はありませんでした。また、狩りをしたり、わなを掛けたりして動物たちを捕える必要もありませんでした。

 創造されたときに初めに置かれた中東から、地球全体に動物が広がっていく過程で、仮にある種の動物が完全に故郷である中東から姿を消したとしても、洪水預言の後に実に百二十年の歳月を経てから実際の洪水が起こったのです。動物たちが主に導かれて箱船に到達するのに、充分すぎるほど充分な時間がありました。現在でも、渡り鳥は季節を知り、方角を感じ取る驚くべき能力によって渡りをします。レミングというマウスに似た小型動物の例に見られるように、多くの野生動物は生活の場を変えるべき時期と方向を知って、自然環境の変動に応じて驚くべき距離を移動して引っ越しをします。また地震など天変地異をいち早く予知して動物が避難したという事例は多数あります。蝶々のような昆虫でさえ、何世代も、時には何百世代も掛けて地球を半周する以上の距離を移動することも報告されています。従って、中東にそういう動物はいなかったはず云々の議論が成立しないことは明らかで、世界中の動物を箱船に招き入れることが出来たのは、全能の創造主を信じていてもいなくても関係なく認めざるをえない事実です。

 先例のないノアの大洪水が来るのを動物たちは本能的に感じ取り、それぞれの動物の種類の代表が主の御手に導かれて、ちょうどよい時に「あなたのところに来る」、「来た」(創世記6:20, 7:9, 14, 15)と書かれてある通りに箱船に来たでしょう。
すべてのことが主の采配のもとに行われ、すべての種類の動物が箱船に収容され、大洪水によって暗く、寒くなった気候変化に呼応して多くの動物が冬眠し食物摂取や排泄などが抑制されたりしただろうことも含めて、箱船内における秩序と平安を主は彼らにお与えになったのでした。

 箱船によって生き残ったノアの家族たち八人とそれぞれの種類の動物たちから、大洪水後の全人類と全生態系が新しく形成されました。すなわち、その後の人類は白人も黒人も黄色人種もすべてノア夫婦と三人の息子夫婦の子孫であり、この八人の遺伝子に潜在的に組み込まれていた様々な遺伝情報が、それぞれの子孫に表現型として現われたのです。ノアはアダムとエバの後継者セツの直系の子孫であり、三人の息子はノアから出ています。しかし、ノアの妻と息子たち三人の妻はアダムとエバの子孫であるということ以外には、どこから出ているかは全く判りません。

 その意味では、カインの遺伝子がこの四人に入り込んだ可能性と共に、実はノア自身にさえアダム、セツから世代を経て十代目のノアに至るまでに、どこかでその家系にカインの遺伝子が混入した可能性を否定する確実な根拠はありません。極悪人カインの血筋はノアの洪水によって絶え果てたとしばしば言われますが、それは人間のある意味で愚かな願望に過ぎません。

 動物に関しても基本的に同じだったので、創造された時点で潜在的に与えられていた遺伝情報が表現型に現れ、現在の生態系が出来上がったのです。

(注)洪水後、ノアは清い獣と清い鳥を祭壇の上で全焼のいけにえとして主に捧げました。モーセの律法(レビ記11)で定められるまで、律法としては清い獣と清くない獣の区別はありませんでした。新改訳、新共同訳、TEVでは雌雄七組ずつと訳されています。 参考文献:「創世記の記録」ヘンリー・モリス著、宇佐神正海訳