6-17.一年と十日目の乾いた土地

第6章 ノアの洪水

6-17.一年と十日目の乾いた土地

神は、ノアと、箱舟の中に彼といっしょにいたすべての獣や、すべての家畜とを心に留めておられた。それで、神が地の上に風を吹き過ぎさせると、水は引き始めた。また、大いなる水の源と天の水門が閉ざされ、天からの大雨が、とどめられた。そして、水は、しだいに地から引いていった。水は第十の月まで、ますます減り続け、第十の月の一日に、山々の頂が現れた。・・・鳩は夕方になって、彼のもとに帰って来た。すると見よ。むしり取ったばかりのオリーブの若葉がそのくちばしにあるではないか。それで、ノアは水が地から引いたのを知った。第二の月の二十七日、地はかわききった(創世記8:1-3, 5, 11, 14)

 前項に続きノアの洪水の出来事について、水が引き始めて乾くまでの後半が、創世記にどのように書かれているかを見ていきます。
実に百五十日間、地球全体が泥水の中に埋もれていました。水は低い所へ流れますから、局地的洪水であればこれほど水が増加し続けることなどあり得ません。水がどこから溢れたかという問題も含めて、地表も地下も掻き乱されたために火山活動なども触発され、地球内部の激しい活動が地表に現れたことでしょう。
こうした様々な出来事によって、人間を含め地上に住む生き物は、聖書に書かれている通りに全滅しました。
箱船に入らなかった水に住む生き物も、こうした状況の中で命を絶たれたものが数多くいたでしょう。出土する化石によって、そのことを知ることが出来ますが、それは後に学ぶ課題として残しておきます。

 しかし、本来水の中に生活する生き物たちですから、生き延びたものもまた数多くありました。
植物もまた、大きな損傷を受けたことでしょう。しかし、植物は、動物とは異なり洪水を乗り越える様々な特性を備えられていますから、例え陸の植物であっても根が保たれ、或いは種子が残されれば生き延びることができました。
事実、水が引いてすぐオリーブの若葉を鳩がくわえて戻ってきたことから分かるように、植物に与えられている生物としての生命力を知ることが出来ますし、この洪水で滅びてしまった植物は意外に少なかったかも知れません。
後世の地球上に生きている動物・植物の各種類はすべて、ノアの洪水を生き延びた動植物の子孫です。洪水後に別の原因によって絶滅したものは不問に付すとして、現在なお多くの種類の動物が地上にも水の中にも生息し、植物が繁茂している事実から、箱船に入らなかった多くの水に住む動物や植物もノアの洪水を生き延びたことが分かります。

 この裁きの大洪水のさなかにあっても、創造主は箱船の救いを与えたノアたちや動物たちのことを心に留めておられました。
洪水を始められた主は、その目的の通りに「すべての人」が死に絶えたことを確認し、しかるべき時が来たのを見て洪水に終止符を打ち、水が引くように風を送られました。
水が引き始めて山々の頂が現れるまでに、実に二ヶ月半もかかりました。四ヶ月経っても、放った烏や鳩が羽を休める場所を見つけることが出来ず、戻ってきました。
現在世界各地で起こっている局地的洪水では、水が引くのにどれくらい掛かっているでしょう。たった一週間水が引かなくても、それは非常に広範囲に及ぶ大変な洪水であり、どれ程大災害になるかは人々のよく知っているところです。
このことから考えても、ノアの大洪水では地球がすっぽりと水の中に埋もれていたことを理解することができるでしょう。それから七日後、水が引き始めて百二十八日後、鳩がオリーブの葉をくわえて戻ってきました。比較的早く水の引いた高い土地にオリーブが早くも根を下ろし、芽を出し、葉をつけたことが分かります。

 地面が乾き始めた頃、ノアはすでに601歳になっていましたが、箱船のおおいを取り除いて外を眺めると地表は乾いていました。
洪水が始まってから、実に一年と十日という長い月日が経ってからやっと、土地は完全に乾ききりました。
主の命令によって箱船を造り、主の命令によって箱船に入ったノアたちは、箱船を立ち去る時もまた、「箱船から出なさい」と主の指示があって初めて箱船から出て、新しい土地を踏みました。
ノアたちの目の前に広がった大地はどんな姿をしていたでしょうか。子どもたちの絵本には、草木が青々と茂り、果樹には豊かに実が付き、遠くに虹が架かった、エデンの園の再現かと見まがう美しい世界がよく描かれています。
子どもの世界の夢としては素晴らしいものでしょうが、主の裁きの後の世界がエデンの園のようではあり得ないと、私は個人的には思ってしまいます。
大洪水の後の寒々とした、手厳しい荒れ果てた世界を想像せずにはおれません。
実際、局地的洪水の後でさえ、土地は荒れ果て、動植物の生態系が乱れ、植物が豊かに育つ土地の開墾に何年もの労苦を要し、また伝染病が発生したりして、どんな大変なことが起こるかを人々は知っています。
洪水に滅び去った同胞たちに対するノアたちの痛み、悲しみもまた、どれ程大きかったことでしょう。