6-24.371日の箱船生活

第6章 ノアの洪水

6-24.371日の箱船生活

水はみなぎり、地の上に大いに増し、箱舟は水面を漂った。水は、いよいよ地の上に増し加わり、天の下にあるどの高い山々も、すべておおわれた。水は、その上さらに十五キュビト増し加わったので、山々はおおわれてしまった。こうして地の上を動いていたすべての肉なるものは、鳥も家畜も獣も地に群生するすべてのものも、またすべての人も死に絶えた。いのちの息を吹き込まれたもので、かわいた地の上にいたものはみな死んだ。こうして、主は地上のすべての生き物を、人をはじめ、動物、はうもの、空の鳥に至るまで消し去った。それらは、地から消し去られた。ただノアと、彼といっしょに箱舟にいたものたちだけが残った(創世記7:18-23)。

 船としてはいかに巨大であったとしてもやはり限られた空間で、また光や外気を大幅に遮断され、狭い世界に閉じこめられた生活はどのようなものだったでしょうか?
1年余の箱船生活について聖書に描写されていないので推測するしかありませんが、箱船の中は昼間でも暗くて寒く、空気の状態は時間と共に悪化したことでしょう(「主が閉ざされた扉」を参照)。

 前に、ノアの洪水が2003年に起こったと仮定して、出来事の時間経過を具体的に把握する試みをしました(「命じられたとおりに」)。今回は、同じ仮定を置いて箱船生活の困難を垣間見てみましょう。


このような試みは、バカバカしく思えるかも知れません。しかし、ノアの洪水は歴史であると頭の中では理解しているつもりでも本質は指の間から滑り落ち、「知っている」と、子供の「聖書物語」と同一視して軽く流してしまいがちです。
この洪水を少しでも実質的に捉えるために、洪水の場に自分の身を置いて、頭の中で疑似体験をしてみたいと思います。

 信仰心に篤いあなたが、同じ信仰を持つ家族又は生涯の親友など総勢八人で、人々に嘲られながら今世紀の技術を駆使して巨大な箱船を完成しました。
象、虎、狼、ハイエナ、狐、犬、猫、兎、りす、鼠・・・全種類の動物を集め、箱船の中に入れました。象など大型動物、虎・狼・狐など肉食動物は頑丈な檻に入れました。
食料品やその他の必要品も積み込み、外が見えず、光が差さず、寒く、空気の流通の少ない狭い箱船の中での生活が始まりました。
地球全面が埋まってしまった暗い泥水の中に箱船は漂っており、外はどうなっているのか全く分かりません。人間的にも、空間的にも全ての面で隔離された、たった八人きりの閉鎖的環境に於いて、正常な霊的、精神的状態を、どのようにして長期間維持出来るでしょうか?

 様々な葛藤・軋轢が生じないでしょうか。恵まれた環境を与えられていながら不平不満をもてあそび、生きあぐねている人々が大勢いる今の社会を見る時、「信仰で!」と安易に言ってのけるような信仰で耐えられる状況ではないでしょう。
さて、動物たち、特に狭い檻の中に閉じこめられた肉食獣は、突如として訪れたこの異常な環境、狭く暗い閉鎖空間、空気が悪い、臭い、自由を奪われ檻の中に閉じこめられ、いのちの通う温もりとの接触がない、寝ても覚めてもそばに同じ動物がいる、運動不足になる、安眠出来ない・・・と、精神に異常を来す条件が全て整っています。
不安・憤り・苛立ち・恐れ・嘆き・絶望などが交錯し、大声で吼えるでしょう。絶えず聞こえるこの声は不安や怒りをかき立て、増幅して、兎のようなおとなしい動物でさえ苛立ち、船内を自由に行動させてはトラブルを引き起こすかも知れず危険です。

 あっという間に全ての動物の自由を奪わなければならなくなり、悪循環を繰り返します。こうして、人間には大きなストレスがさらに加わります。
現在であれば、あの箱船で大過なく生き延びることが出来る可能性はゼロに近いと思われませんか?三百七十日後には、動物たちは耐えられずに殆ど死んでしまい、人間は、肉体は死んでいなくても霊魂は死んだ状態となっていても不思議はないでしょう。
ところが、ノアたちは霊も魂も肉体も健康そのもので箱船から出てきたことが、後の記事にあります(創8:20)。
それがどのようにして可能であったかは、史実として知ることは出来ません。当時、肉食がほぼ無く、「食うか、食われるか」という弱肉強食はまだ希薄だったと考えられることが、大きな相違点として挙げられます。

 創造当初とは違うでしょうが、それでも動物たちはまだ互いに傷つけ合う対象ではなく、虎と兎が仲良く一緒に遊ぶ関係だったでしょう。船内で自由を奪う必要がなければ運動不足は起こらず、それも相まって精神的ストレスも発生せず、自然環境には及ばなくても我慢の範囲の生活環境が与えられたことでしょう。
動物間に諍いがなければ、人は動物の管理に苛立つこともないので機械的に餌を与えるのではなく、愛を込めて世話が出来、すると動物たちは人間関係への緩衝作用となり、また慰めを与えますので、さらに良い結果を生みだしたでしょう。
船内が穏やかに落ち着いておれば、冬眠する動物たちは妨げられずに冬眠出来たでしょう。「狭く暗い」など生活条件として客観的には快適とは言えない箱船でさえ、互いの間に争いがないというだけで良い環境へと変えられていったでしょう。
もとより主がいつも共におられ、ノアたち八人が主を信頼しきっていたことが根底にあったので、大洪水を恙なく乗り越えることが出来たのでしょう。